SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


今この瞬間だけのもの

【令和2年10月24日(土)】
結論を記すと今日は「鮎の歌」デーとなりました。最初の発声練習で「君をのせて」を歌いましたが、そこから先は「いちごたちよ」から始まって「鮎の歌」全曲を歌うことができました。
しかも今日は音の確認はごくわずかで、テンポや強弱、そして「なぜそのように歌うのか」という表現についての練習となり、みんなと合わせて一緒に歌うことでのみ成立する練習ができたと思います。
「いちごたちよ」は非常によくハモっています。音程が正確だからです。強弱などもできていて、そのまま次の曲にチェンジしても良かったのですが、注文を付けました。
何を注文したかと言うと、声の「色合い」です。出てきた声は「青」あるいは「群青色」。それはそれで美しいハーモニーであり、別に「悪い」と言ったわけではありません。ですが、「黄色」あるいは「ピンク」の声にしようよ。と提案しました。
つまり、野いちごたちがビニールハウスのいちごたちに向かって「青い空や流れの響きを知らないのかい?」と呼びかける情景を、夜の星空の中でとイメージするか、輝く太陽の光の中でとイメージするか…です。
断っておきますが、これはどちらも「あり」です。表現としてはどちらも強い説得力を持ってお客様の耳に届くことでしょう。だから、
合唱団が「星空のイメージ」を持っている → 青や群青色の声
合唱団が「太陽のイメージ」を持っている → 黄色やピンクの声
で歌えば良いわけです。
で、最初に出てきた声は「青や群青色」の声でした。そこで指揮者として「よし。星空のイメージで行こう」と判断したならば、すぐに次の「鮎の歌」に突入したところでした。
ですが、嶋田先生の瞬間の判断は「みんなは太陽のイメージを持っているだろうな」というものでした。もし、みんなが「太陽のイメージ」を持っているのなら、その声の方向性は適切なものではありません。そこで「もっと明るく」「もっと嬉しそうに」「発見した喜びの声で」という今日の指揮になったわけです。
だから、もし今日のメンバーが「星空のイメージで歌いたかったのにぃ…」と言うのなら、そこを理解できなかった担任として嶋田先生はメンバーに謝らなくてはなりません。
「みんなは太陽のイメージを持っているだろうな」と思ったから今日の指揮となりました。そして、声の方向性は確かに「太陽のイメージ」へとベクトル(やじるし)を変えていってくれました。機会があったら感想を聞いてみたいものです。
声のベクトルが明るくなってきたので、何も言わずに「鮎の歌」に入りました。「夜明けの歌」「きらめく太刀」「歌のしぶきを浴びてきらめき走る」といった歌詞をイメージする時、明るい声で歌うと気持ち良いですね。ほとんど止めることなく5分間を歌い切りました。
休憩に入る前に「1000回まちがえても良いから全曲を通して歌いましょう。それで、後半には「雉」「わさび田」「猪譚」の中で上手くいかなかった曲を練習しましょう」と提案しました。出てきたハーモニーは、いやぁ、なかなかのレベルでしたよ。

休憩の後、まずは浜田先生に「おれ、この曲が一番練習する必要があると思ったんだけど」と、嶋田先生の「答え」を告げておいてから、後ろ向きになって「どの曲を後半の練習にするべきか、手を上げてください」と求めました。だから誰がどの曲に手を上げたかは分かりません。どの曲に何本の手が上がったのかも知りません。
みんなの答えを集計してくれた浜田先生は「多かったのは「わさび田」でした」と教えてくれました。嶋田先生が事前に「おれ、この曲が…」と告げておいた「答え」と一致しました。これは芝居でもヤラセでもありません。みんなの感性が嬉しかったです。
「わさび田」は「ゆらめき」の音楽です。dolce、テヌート、espress.、molto などの表現記号がいっぱい付いています。それに加えてクレシェンドとデクレシェンドやアクセントなども散りばめられており、これを算数的にトントンと指揮棒を叩いて処理しようと思ったら気が狂いそうになります(笑)。
かく言う嶋田先生だって、さっきやった動きといまからやる動きとを完全に一致させることは不可能です。そんなことはコンピュータかロボットにならできるでしょうが、人間には不可能です。人間は(嶋田先生は)自分の呼吸や心臓の動きもテンポに影響しますが、それ以上に目の前で歌っているメンバーの呼吸や肺に残っている空気の量まで察知して、瞬間瞬間にテンポを判断するからです。だから、今日やったテンポあるいは表現あるいは指揮法が本番のステージで完全に再現できるかと言うと絶対に不可能です。コンピュータは目の前で歌っているメンバーのコンディションなど関係なく、記憶されている表現テンポを再現するだけだから、いかなる複雑なテンポの変化でも完璧に再現してくれますけれども…。
今日の「わさび田」の表現は、無責任な言い方かもしれませんが「今日だけのもの」です。だからどんな表現だったかを記しても欠席者にとって意味はなく、次に集まった新しいメンバーでまた新たな表現を作ることができるように準備をしたに過ぎません。
しかし、これこそがアンサンブルをする最大の喜びであり、音楽のアンサンブル(みんなで表現する)とは二度と再現できない「今この瞬間だけのもの」なのです。「鬼滅の刃」とかいう話にも通じるところがありませんか?

今日は小学校の運動会あり、高校の見学会あり、もちろん熱もあり部活もありコロナもありで、欠席しなければならなかったメンバーも多く、そして来週も事情は変わりません。嶋田先生が務めていた福田小学校は来週が運動会です。欠席者がいて当然です。

ここに宣言しておきましょう。11月1日(日)は、たとえ新入団員が来てくれたとしても、その子に赤いベストを着てもらってステージの上で練習に参加してもらいます。「小さな目」も「鮎の歌」も11月1日に生まれて初めて楽譜を見る、そんな子も参加できるようにリハーサルをして、練習方法を工夫します。それは音楽プラザでいつもやっていることです。
コロナで悩んでいる子も「空」と音楽には悩まないで、学校に行く感覚でケロッと来てほしいなぁ…と心の底から願っています。そして、いっしょに練習しましょう。みんなで歌い合わせる楽しさを少しでも味わい、思い出してもらえるのなら、嶋田先生は本当に嬉しく思います。みんなでいっしょに、がんばりましょう。

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