SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


声の表現 猪譚

【令和2年9月26日(土)②】
「アツシの歌」をおさらいした後、「猪譚」を歌いました。中心に考えていたのは音の確認ではなく、声の出し方を中心とした「猪譚」を表現する方法についてです。
前項で報告したように、この日は声が非常によく響き、音程もしっかりしていて、全員が初めてか2回目の「アツシの歌」なのに安定したハーモニーが生まれていました。
だから…と言うわけではありませんが、「猪譚」で求めたのは一言で言えば「できるだけ汚い声で、できるだけ乱暴な歌い方で」ということです。また、何度も「歌をウタってはいけないよ」と繰り返しました。
「おれは寝てた 寝場はその時 見切りの衆と 組犬どもに囲まれた」というフレーズ。これを「歌」だと思うから歌ってしまう。もちろん「歌」には違いないんだけれども、「歌」である以前に「音による戦争世界」なのです。
だから「おれは寝てた 寝場はその時 見切りの衆と」と歌うのではなく、それぞれの歌い出しの「お」「寝」「見」がどういう音(声)で「戦争世界」を表現するか、そちらの方が重要です。
「お」は低いシでユニゾン、「寝」は低いシにミが加わってハーモニー、「見」はミ・♯ファ・シの不協和音です。さらに「組犬」の「み」は♯ファ・シ・ミと上へ跳ね上げての不協和音です。
ここは「おれは寝てた 寝場はその時 見切りの衆と 組犬どもに囲まれた」と歌うのではなく、「お」「寝」「見」「組」をダイナマイトが爆発したような激しくて汚くて乱暴な響きを鳴らすこと。その乱暴な響きの不協和音で「戦争世界」を描き出すのです。
これはそう簡単にできることではない。そもそも「歌が大好き」であるメンバーが車や電車に乗って「歌を歌おう」と思ってイソイソと集まって来てくれたんです。そのメンバーに向かって「歌をウタうな!」ってんですから、正反対の話です。でも、「猪譚」という曲の世界は、「浜辺の歌」とか「アツシの歌」などとは「世界が違う」ことは間違いありません。
そのことは先生が一瞬「浜辺の歌」を歌って聴かせただけで全員がナットクしてくれたようでした。「浜辺の歌」を聴いた一瞬の表情やその後の歌い方の変化から確信しました。
P17からP18の1段目だけを何度も繰り返して表現し、ここだけで30分ほどの時間が必要でした。
でもメンバーはガンバリました。その音(声)は少しずつ変化していきます。「イノシシってのは何色だ?キタナイ茶色だよ」と叫びます。「だいたい小学生っていうのは犬やウサギの絵を描いたら、ピンクや黄色で塗っちゃったりするんだよね」とか「このイノシシが黄色やピンクだと思っちゃダメだ」などと、そこらへんの教師が聞いたら卒倒するような教え方です(笑)。
P17の歌い出しが「戦争」の色になってきました。これができれば、あとはかなりやりやすくなります。
「猪譚」という音楽は、その後のP19やP22も同じ表現方法が要求されています。しかもP17~P22までがワンセットで、P23~P26までが転調されてワンセット繰り返されます。P27からスリーセット目に入って終了するという構造です。
だからP17からの歌い出しに十分な時間をかけ、あとは同じ表現の繰り返しだということを確認していきました。
と言うことは「猪譚」という曲は最初から最後まで「戦争世界」なのであって、美しくヤンワリと歌う部分は一ヶ所もない。最初から最後まで「できるだけ汚い声で、できるだけ乱暴な歌い方で」ということです。
嬉しかったのはメンバーから出てくる音(声)が少しずつ変化し、練習が終わる頃には最初とはかなり違った迫力のある音(声)になっていったことです。ありがとう。大感謝です。

家へ帰ったら新実徳英先生からメールが来ていました。
「第25回定期演奏会で(自分の作品だけでなく)1ステージを湯山先生の音楽で構成することは何の問題もありません」
という内容でした。
新実徳英先生には「白いうた青いうた」を全部指揮してくださるようにお願いしました。53曲ありますから1回ではできません。だから1回で16~18曲ずつ、「3年かけて歌いたいです」とお願いしました。それに対する返信は
「凄い企画ですね」というもので、新実先生も超本気モードです。
これまでの「空」もそうでしたが、どこの合唱団も1回のコンサートで「白いうた青いうた」の中から気に入った曲を1ステージというのが定番で、53曲全部を歌った合唱団は嶋田先生の知る限り日本中どこにもありません。
それを3年かけて、しかも作曲者ご自身の指揮で全部歌おうという、かつてない挑戦です。おそらく新実先生にとっても初めての経験でしょう。53曲全部歌おうなんて、そんな話は一度も聞いたことがない。だから「凄い企画ですね」という返信をくださったものと思います。

新実先生はとても柔軟な方です。ご自身の曲だけでなく、モーツァルトなど様々な音楽をいろいろな合唱団で指揮されています。「音楽監督の湯山先生の曲を1ステージ歌いたいです」という嶋田先生のお願いにも「何の問題もありません」と返信してくださいました。

新実先生に3年連続で客演指揮をお願いすることとなりましたが、それは3年間「新実作品」だけを歌うという意味ではありません。第22回や第23回定期演奏会と同様にさまざまな音楽を定期演奏会に取り入れていくことができます。このあたりのことはメンバーにも意見を聞きながら、楽しい演奏会を作っていきたいと考えています。

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