SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


同じ音の連続は最高級の技

【令和2年3月7日(土)】
新型肺炎の心配は相変わらずです。学校も卒業式の実施案の練り直しや通知表を含めた持ち物をどのように返すか、加えて何人来るか分からない受け入れ児童の対応など、課題山積で例年になく多忙な日々です。
合唱団「空」の対応については総務から回っているメールと先週の「空ノート」に記したとおりです。嶋田先生としてはメンバーの一週間分のストレス緩和に役立つように、効率的かつ楽しい練習を行っていきたい。ただそれだけです。
それから、コロナ疎開(いなかの婆ちゃんの家に避難している?)していたり、練習には行きたいのだけれども安全を考えて大事を取っているメンバーは、「練習が遅れちゃう」などと心配することはありません。今は「力を蓄えている」時期ですからね。大丈夫です。それに、8月や9月に新入団員があったとしても、その子を11月の本番に間に合わせてしまう練習を組むことが嶋田先生の得意技ですからね。それは、みんなもよく知っているでしょう?気にしないで大事を取ってください。

フェールマミはグランドピアノがありますから、ピアノの開放弦を使った声の響きのトレーニングをやろうかなぁ、と当然考えます。「空」独特のこの練習方法をまだ知らないメンバーも増えてきましたしね。ですが、わざわざ集まったメンバーをさらに密集させて、しかも声を本気で前に飛ばす努力をすることもないでしょう。いろいろなトレーニングがあるのですから、今は「音を聴く」ことと「聴いた音をすぐに声として再現する」ことと、「ハーモニーを作る」ことと「「コタンの歌」の理解を進める」ことで良いと思います。

「マリモの歌」はソプラノのメロディーが美しいです。これを全員で歌うと「メロディーを美しく歌う」力が伸びてきます。童謡は基本的にメロディーだけでハーモニーはありません。その童謡に多くの名曲がある湯山先生のメロディーメーカーとしての才能が現れています。これに呼応するメゾソプラノとアルトは「いかにしてハーモニーを作るか」という基本技が山盛りです。P19~20のアルトは、いったん音が決まったらその小節は全部同じ音の連続です。P21の終結部「落とし穴のような…」も全部同じ音の連続。この部分は良く見るとバリトンとバスもアルトと同じ♯ファの音を連続させています。
同じ音の連続。合唱というスポーツを知らない人や超初心者は「つまらない」と感じることでしょう。あるいは「何だ、カンタンだ」と思ってしまうかも知れません。実際に嶋田先生も、今は「ずっと同じ音が続くよ。パッと音を取ってください」と言って練習を進めています。
ですけれどもね、本当はムズカシイんです。同じ音の連続をキープするということは。P21下段の「落とし穴…」で調べてみましょう。
最初の「お」は、だからアルトはずっと続く♯ファです。これにメゾソプラノのラとソプラノの♯ドが加わります。
次の「と」と「し」は、アルトは同じ♯ファですがメゾソプラノはシになりソプラノが♯レになっています。
そして次の「あなのような」は、「お」と同じ♯ファ・ラ・♯ドに戻ります。次の「静けさの中で」を分解すると
「し」→♯ファ・ラ・♯ド
「ずけ」→♯ファ・ラ・ミ
「さのな」→♯ファ・シ・♯レ
「かで」→♯ファ・ラ・♯ド となっています。
このようにハーモニーは瞬間瞬間で変化していて、アルトはずっと♯ファを出しているのですが、相手(つまりメゾソプラノとソプラノ)が出してくる音が違うので生まれるハーモニーの色彩が変化する。アルトが「し」で出す♯ファと「ずけ」で出す♯ファは同じ音ですが、相手の出す音が変わるので同じ♯ファでも意味というか役割がゼンゼン違ったものになるわけです。
分かりやすく図画工作の場面に例えます。
嶋田君は(アルトは)赤い絵の具を出しました。浜田さん(メゾソプラノ)は黄色を出します。恒川さん(ソプラノ)は白い絵の具を出しました。それで3人の絵の具を混ぜました。
次に、嶋田君は(アルトは)やはり赤い絵の具を出しました。浜田さん(メゾソプラノ)は緑色を出します。恒川さん(ソプラノ)は青い絵の具を出しました。それで3人の絵の具を混ぜました。
そうなると出来上がった色は全く違う物になるはずです。同じ赤い絵の具でも、相手が出してくる色によって結果がゼンゼン違う物になる。
これは面白いですよ。というか極めてムズカシイ作業、非常に高級な話になるんですね。同じ音を連続させてキープするということは。だから面白い。
このような高級な話は、本当に表現を練り上げるモードに入ったら本気になって指導します。今は曲の骨格を理解する段階だからサッと流しています。
表現を練り上げるモード(おそらくは夏以降)に入った時、指揮者(嶋田先生)が何だか同じような指示を出して同じ場所をシツコク何度も繰り返して歌わせる場面があるでしょう。それは、このような瞬間瞬間に変化する色彩をより鮮やかにするために試行錯誤しているのであって、合唱団員をイジメているわけではないのです。
おそらくは夏以降に展開される「表現を練り上げるモード」の準備段階として、着々と「合唱力」が高まりつつあります。なんてったって「マリモの歌」のこの部分だけではなく全ての曲で全員が全部のパートを歌い込んで経験値を増やしているわけですからね。
脱線ですがP21からの「落とし穴のような静けさの中で」はアルトとバリトンとバスが同じ♯ファの音をキープしているのは前に書いたとおりです。ですがバリトンの♯ファはアルトの♯ファよりも1オクターヴ低い音です。バスが出す♯ファはバリトンよりも1オクターヴ低い音です。つまりアルト・バリトン・バスで2オクターヴにわたる分厚い♯ファを響かせます。この分厚い根音(木で言えば根っこに当たる全体を支える音)は配ってあるCDでももちろん聴こえますが、実際に自分の声として響かせる時にはシビレルことでしょう。少年少女(女声)の響きでは出せない混声合唱の2オクターヴにわたる根音です。
この部分、ソプラノとトップテノールは同じ音なのです。メゾソプラノとセカンドテノールも同じ音だと思ったら「静けさの中で」の「ず」と「け」だけ違います。この部分を除いて後は全て同じ音が2拍ズレて歌われるわけで、メゾソプラノとセカンドテノールの「ずけ」だけが違う。うっかりしていたら気付かないような部分にピリッとワサビを利かせているんです。恐るべき作曲家です。

「マリモの歌」の後は「船漕ぎ歌」「熊の坐歌」、休憩をはさんで「ムックリの歌」と「パナンペ・ペナンぺのリムセ」を全部、全てのパートを全員が歌いました。けっこう細かい音程にも注意を払って歌ったので、ハモらせた時にはかなり力強い響きになったことを報告しておきます。最後の5分で「臼搗き歌」を好きなパートを担当して1回通して歌いました。まがりなりにも本番で予定している6曲を全部歌い通してしまった。
「コタンの歌」を初めて聴き、楽譜を買ったのは40年前です。湯山先生の指揮で歌ったのが8年前になりましょうか。その時には、まさか合唱団「空」の力を借りて「コタンの歌」を歌う機会が来ようとは夢にも思いませんでした。本当に感謝です。
練習を続けるためにも自分が感染しないように、学校に行くバスと地下鉄の中はマスクをしようと思っています。

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