SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


「南海譜」イメージ

くれぐれも確認しておきますが、これは嶋田先生のイメージです。
合唱団「空」のメンバーに「このように思え」という意味ではありません。
そうではなくて、嶋田先生のイメージをヒントにして、自分自身のイメージを膨らませることのできる子になってください…というのが願いです。
みんなの心の中に、もっともっと豊かでステキなイメージが拡がり、膨らんでいってくれることを心から願っています。


女声合唱とピアノのための「南海譜」

1 海

 一
この世は ふたつの
手品を してみせる
わたしの 腕から
沖へにげだす島
あなたの あしもと
うごかなくなる虹

 二
この世は ふたつの
飾りを つけている
わたしの 首には
サンゴがうまれる波
あなたの 髪には
人魚がこぼした砂

【イメージ】
  一
 神様は 二つの
 不思議な奇跡を 起こしました
 私の 人生から
 故郷を奪い取った(でもそのかわりに)
 あなたの 愛の中に
 不滅の希望があるのよ

  二
 神様は 二つの
 祝福を 私たちにくださった
 私には
 新しい生命(赤ちゃん)を
 あなたには
 人魚のような尊い愛を…

※何が「私の人生から故郷(島)を奪い取った」のか…。それは分かりませんが肉体も故郷をも超えた「不滅の愛」をイメージします。
※曲集「火の山の子守歌」の「落葉」でも触れましたが、「海」には「母」の象徴という意味があります。
※三好達治の詩集『測量船』に「郷愁」という詩があります。
 (部分の抜き出し)
  海よ 僕らの使う文字では
  お前の中に 母がいる
  そして母よ フランス人の言葉では
  あなたの中に 海がある
※漢字では「海」は「母」を含み、フランス語の「母」「mere」は「海」「mer」を含んでいます。まさに「母」に対する永遠に続く「郷愁」です。
※谷川雁の「海」も「母」「お母さん」と考えると、自分自身が「母」になった喜びと、「あなた」との永遠不滅の愛…というテーマが込められているような気がしてなりません。 


2 鳥舟

 一
荒れし園の春 さぎの羽ひとひら
旅びとのごと 水のうへめぐりぬ
「つつましき世の ものがたりをせずや」
ほほゑみしよ 青ざめしよ
「かのふねのをかしき いつの日にか
われ君が手に とらはれむしるしぞ」
忘れじ このとき 立ちたるそよかぜ

 二
かなた野のはてに 音もなきいなづま
罪知るがごと ばらの庭かがやく
「あすよりははや いくさびとのわれぞ」
うなだれしか 震へりしか
「いまあけしとびらを いかで閉ぢむ
とく帰りませ しろきふね待てばや」
忘れじ かのとき ゆれしはさざなみ

【イメージ】
  一
 荒れ狂う運命の出発(たびだち)は 風に舞い狂う鷺の羽が
 湖水に落ちてさまようように 運命に抗えぬ旅人 
 控えめなこの世の 有様を物語ろう
 ほほえみ そして青ざめる
 あの美しい棺桶は いつの日か
 私が運命の魔の手に とらえられた証拠だ
 私は戦争に行く この時に私のホホをなぐさめる微風を忘れない

  二
 遠く野の果てに光る稲妻のように
 人を殺しに行こうとする罪を知るかのようにバラが庭で輝く
 明日からは もう 戦人になる私
 首は項垂れ 身は震え
 今 開いた運命を どのように閉じようか
 はやくあの世へ帰るのだ 白い棺桶を待って
 私は戦争に行く この時に揺れる湖のさざ波を忘れない

※「さぎの羽」を「天からの運命」と読み、さらに「召集令状」(戦争に行けという命令)とイメージします。
※「つつましき」とは「控えめ」「しとやか」という意味です。
※「をかしき」とは「風情がある」「美しい」「魅力的」という意味です。
※「ふね」を「棺桶(かんおけ)」とイメージします。亡くなった天皇を棺桶に入れる儀式を「お舟入り」と呼びます。


3 ぶどう摘み

だれのために ぶどう摘むの
だれのせいで 四角な露

だれのために はさみ鳴らす
だれのせいで みどりの虹

篭をだけば すあしの道
ひとつぶ 愛はこぼれ

かわく土で ことば持たぬ
種子になる 炎あげて

だれのために けさもひとり
青いぶどう 摘むの摘むの

【イメージ】
 天国へ行ってしまったあなたのために 私はブドウを取り入れる(生き続ける)
 天国へ行ってしまったあなたのせいで 悲しみに歪むほどの涙を流した

 天国へ行ってしまったあなたのために 私はブドウを取り入れる(生き続ける)
 天国へ行ってしまったあなたのせいで 虹の色も分からないくらい涙を流した

 でも ブドウ篭を抱けば あなたと歩いたあぜ道に
 あなたの愛が ただよっていて

 ブドウ畑に あなたの声は聞こえないけれど
 あなたが残した新しい生命が 私の中に宿り

 だから私は あなたのために 今日も
 わたしたちに授かった赤ちゃんを育て そして見守るの

※「四角な露」を「悲しみで歪んだ涙」とイメージします。
※「だれのために」は「いなくなってしまったあなた」で良いと思いますが、嶋田先生はもっと強烈に「死んでしまったあなた」とイメージします。
※やはり「永遠の愛」「不滅の愛」です。


4 なまずのふろや

 一
なまずこのほど ふろやを はじめた
あおい月でる 波のおとする
蛙の親子 みずかき ごしごし
けさのテストは 5足す3 4掛け2
しくじった めっちゃくちゃ うき世は くらいな
どじょうが 死んだなら 蛍どんになぁれ
蛙咳して まいいさ ぴんとこしょ
金もはらわず けろけろ おやすみ

 二
なまず得意で ひげづら ぴくぴく
とおい山から おめあての客
からすの娘 ぽっかぽか しっとりと
髪をなでなで ロシヤが 見たいわ
あら待って すっからかん うき世は つらいな
なまずが 死んだなら 泥亀になぁれ
おやじぷるぷる ふるえて けしからん
ぐらりもくもく ふろやは おしまい

※この詩はおとぎ話です。読んだままのイメージが、そのまま詩の世界になります。


5 いでそよ人を

 一
笹原には 声がないと
見わたすとき ひるがえる白
こころの裏 風すきとおり
谷をうめて ゆれる文字は
いでそよ人を 忘れやはする

 二
あて名なしの うすい手紙
おいてきたか 封もしないで
夜がくれば ながれぼし読む
露にとけた 墨の文字は
いでそよ人を 忘れやはする

【イメージ】
  一
 ここにはもう あなたの声は聞こえない
 あなたの姿を求めて探す時 空には雲が流れるだけ
 私の心の裏側を 風が通り抜け
 風が運んできた 見えないあなたの手紙
 あなたのことを 私は決して忘れない

  二
 その見えない手紙には もちろん宛名はなく
 あなたの(実際の)手紙は 戦場に残されたまま  
 でも私には分かるの 流れ星が見えるように
 戦場で砕け散った手紙に 何が書かれていたのかを…
 あなたのことを 私は決して忘れない

【百人一首 58番】に
 有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする
という和歌があります。
有馬山に近い猪名の笹原に風が吹くと、そよそよと音を立てるように、あなたのことを忘れることは決してありません。
という意味です。
※「有馬山」は、現在の兵庫県神戸市北区有馬町にある山のことです。
※「猪名(いな)の笹原」は、兵庫県川西市、伊丹市、尼崎市辺りです。
※「いで」は、「さぁ」「いやはや」「まったく」という意味。「そよ」は、「そうだよ」という意味です。
※「人を忘れやはする」は、「どうしてあなたを忘れることができるでしょうか」と訳します。
※なぜ「あなた」はいなくなってしまったのか…。嶋田先生は「戦争」をイメージします。


6 砂よ

あなたが忘れた 時計の音に
わたしのあなたの わたしをさがす

星座盤をまわせば きえる月の光
殻のない貝になる 珊瑚樹の雨

うつろな木の根 のぼった蝉は
十日のいのちを 知らず燃えた

よじれるこころの 糸まきたぐり
とけない謎とく 耳鳴りうなり

この部屋どこ 影はだれ
都に鐘など きこえはしない

わたしは何
からから さらさら
砂よ

【イメージ】
 あなたが(この世に)残した時計が時を刻んでいる
 私の大切なあなたの あなたの心の中にいるはずの私

 世界を力で回そうとすれば 希望も生命の失われるのに
(世界の人々を)全てを失う人にする 爆弾の雨 

「戦争」という意味も無い目的に向かったあなたは
 何の意味も無い生命となって燃え尽きた

 もだえ苦しむ心を たぐり寄せ
 答えの無い謎(戦争の目的)を解こうとする 絶望が頭に鳴り響き

 ここはどこ? あなたはだれ?
 街から 時(歴史・文化なども)は消え去った

 私は何のために生きるの?
 空しく意味の無い時を刻む砂時計?
 その中の砂の一粒 それが私?

※珊瑚樹の葉は褐緑→褐色へ、実は鮮やかな赤→青黒へと色を変化させます。これは事実。
※だから「珊瑚樹の雨」を「変化させる雨」と考え、「人間の時間を平和から地獄へ、安らぎから苦悩へと変化させる爆弾の雨」と読みました。
※「十日のいのちを」については「南海譜」を参照。


7 しらかば

 一
しらかばがつく ためいきひとつ
足もとの草におちる 真夜中
ゆれているのは翼馬座だけど
わたしもすこし かたむいている
苔の匂いに こころ奪われ

 二
しらかばふいに おしゃべりをする
まだ若い低いこえの 早口
消えていくのは野うさぎだけど
わたしもすこし 溶けかけている
黄いろい月に 肩をだかれて

【イメージ】
  一
 しらかばがつく ため息は
「私はもうすぐ草むらに倒れるの。きっと誰も知らない真夜中に。
 その時、空にはペガサスがゆらめいていて
 私の命も少しずつ消えてゆく
 あぁ、苔の匂いが気持ちいいわ…」

  二
 しらかばが急に 話し出す
 まだ若い樹なのに 早口で
「あぁ、野うさぎたちのかわいい姿も見えなくなってきた
 私の命は溶けかけている
 地面すれすれに見える月が 私を祝福してくれるわ…」

※白樺は荒れ果てた土地に(たとえば火山の爆発で溶岩に覆われて植物が全部枯れた土地に)最初に芽生えて、そして20年から30年で枯れて、次の雑木林(ナラ・クヌギなど)が育つ栄養となります。つまり、自分が滅びることによって次の生命を育てる礎になる…ということ(これは科学的事実)です。その白樺の気持ちを歌った詩であると考えます。
※自分が傾いて倒れていく時に、ペガサスが傾いて見え野うさぎは消えていくように見える…という切ない気持ちです。
※でも白樺は「自分が滅びることで他の誰かを救う」のです。


8 南海譜

 一
南のすな まぶしい影
いくさ果てて さびる錨
よせる波を くだくしずけさ
魚よ 魚よ おなじ骨ぞ
ともにうたえ 鮫のみやこで
あわれ 時の 椰子の高さ

 二
潮がみちて 十日の月
船底から のびる鎖
わかい祖の こえの泡だち
孫よ 孫よ おなじ年ぞ
ともにあそべ 渦のもなかで
あわれ 時の 珊瑚の赤さ

【イメージ】
  一
 南の海に まぶしい光
 戦争が終わって 海の底の軍艦は錆びてゆく
 静けさを砕くのは波の音だけ
 あぁ、私は白い骨になっているけど
 魚たちよ いっしょに歌おう
 時は流れて…椰子の木はあんなに高くなって…

  二
 海は満ち引きを繰り返すが 何の意味もない時の流れ
 軍艦の中から たちのぼる泡は
 若いまま戦死した兵隊の声
 「孫よ孫よ 私と同じ年になったのか」
 いっしょに遊ぼう 孫たちよ
 時は流れて…サンゴもあんなに赤くなって…

※「あわれ」を漢字で書くと「哀れ」と「憐れ」の二つがあり、「哀れ」は物悲しい様子、寂しい様子。「憐れ」には気の毒な様子、同情すべき様子という意味があります。
※「南海譜」の「あわれ」には、物悲しく、寂しく、気の毒、同情すべき、という全ての意味が含まれていると思われ、どちらの漢字か考えることは無意味だと思います。
※六日の菖蒲、十日の菊(むいかのあやめ、とおかのきく)という諺(ことわざ)があります。
※5月5日(菖蒲の節句)までの菖蒲、9月9日(菊の節句)までの菊は価値があるが、その日を過ぎると一気に価値がなくなるという意味です。
※つまり、時機が過ぎて価値のなくなった状態をのこと。例えば、2月14日を過ぎたバレンタインチョコ、12月25日を過ぎたクリスマスケーキが投げ売りされることと同じ意味合いです。
※最近テレビで、フィリピンの海底に沈んでいる戦艦武蔵の映像を見ました。ボロボロになった武蔵の船内には、今も当時の年齢のまま白骨になった兵隊さんが残されているはずです。その白骨が、今を生きる子どもたちに「孫よ孫よ」と呼びかけている。強烈・痛切な反戦歌です。

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