SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


なんとなく そして カン

【令和2年6月13日(土)】
今日は雨が降っていたのでバスで音楽プラザに向かい、中リハーサル室に着いたのは9時10分でしたが、その時すでにOさんとWさんがイスを並べてくれていました。大感謝です。
密集を避けるためにできるだけ離して中リハーサル室いっぱいに並べたイスですが、練習を開始した後も次々と埋まっていき、足りなくなって新たにイスを出しました。メンバーの意欲と協力に頭が下がります。
練習は組曲「鮎の歌」から「わさび田」を取り上げました。表現の練習ではありません。全部のパートを全員が必ず一度は歌う機会を作ります。音楽の流れを止めないでソプラノ・メゾソプラノ・アルトと歌っていき、4回目は好きなパートを歌ってハモらせていきます。2小節あるいは4小節のまとまりを音楽の流れを止めないでソプラノ・メゾソプラノ・アルトと全部歌う…。この方法はハーモニーを作る音の役割を頭でではなく自分の耳と声でとらえていく方法です。カンタンに(野球に例えて)言えば、一人一人のメンバーをピッチャーでもキャッチャーでもファーストでもセカンドでも、どのポジションでもこなせる力を付けておこうという発想です。6月中にパートを決めて7月から表現の練習に入った時、この「力」は絶対に効果を表しますし、何よりも歌っていて「楽しい」という感覚を味わうことができるはずです。音が分かっていて歌うのと音が分からずに歌うのと、どっちが楽しいか。もうすぐその「楽しさ」を味わう練習に突入します。
それにしても、「こう歌ってください」「ああ歌ってください」と次から次へと繰り出す課題を全部こなしていくメンバーに拍手です。「たまには2ヶ月くらい練習自粛する方が上手くなるのかも知れませんね」などという冗談とも本気ともつかない発言が嶋田先生の口から思わず飛び出してしまいました。

休憩の後、今日も持ってきた(音が少し狂っている)鍵盤ハーモニカBを登場させました。(音が正しい)鍵盤ハーモニカAと同時に吹くとレの音でウネリが生じます。そのことを先週参加できなかった子のために少し説明しておいて、さぁ今日のメインイベント。
メインイベントと言っても、特別なハードトレーニングをしようなんて考えていません。全員でジャンケンをして3人の解答者を選びます。その3人の後ろから鍵盤ハーモニカAとBを吹き、「さて、どっちが正しい音か」を当てようっていう設定。
見ている人はテレビの視聴者で、3人は番組の中の解答者です。ここで大切なことは視聴者となった多くのメンバーが、解答者以上に真剣に鍵盤ハーモニカの音を聴いていたことです。自分でも真剣に聴いていないと番組を見ていても面白くありません。嶋田先生は実は解答者3人よりも圧倒的に多い視聴者の様子(聴く姿勢というか聴き方)に注意を払っていました。よく聴いていたと思います。
ところが3人の解答は、そろって正解だったのです。3人とも迷わずに「最初に吹いた方が正しい音だ」と手を上げました。これは拍手でしたね。
そこで次はスペシャルクイズ。いわば「東大王 超難問クイズ」です。400円と1000円と86000円のリコーダーの音を聴き、どれが86000円か当てようっていう設定です。
ヒントとして、あらかじめ3人に(と言うか全員に)3つのリコーダーの音を聴いてもらいました。その上で解答者の背後に回り、3つのリコーダーで「浜辺の歌」(成田為三)と「軍隊行進曲」(シューベルト)を演奏しました。
3人がどのような表情で聴いていたのか先生には分かりません。分かっているのは視聴者となっていた多くのメンバーの表情です。多くの視聴者はどのリコーダーを吹いているのか目で見て分かっているのですが、興味深く真剣に聴いていてくれました。先生のネライはそのように興味深く真剣に耳を傾けようという「気」を少しでも育むことにあったので、このスペシャルクイズに解答者が正解か不正解かは問題にしないつもりでいたのです。そしてそのネライは完全に達成されました。
けれども、次の瞬間に予想もしていなかった恐るべき結果が生まれました。
3人が3人とも「いちばん最初に吹いたリコーダーが86000円だ」と迷わず手を上げたのです。
このような時、つまり授業で国語や算数の問題でAかBかを答えさせる時、先生が絶対に許さなかったのは「となりの人の様子を見て手を上げる」「多くのみんなが手を上げるから自分も手を上げる」という子です。許さなかったと言っても別に叱ったり怒ったりしたわけではない。手を上げさせる前に必ずこう言いました。
「Aと思う、Bと思う、AかBか分からない、この3つのうちのどれかに必ず手を上げてください」
そしてAあるいはBを間違った子よりも「分からない」「結論を出せない」に手を上げた子に対して、その問題のどこに結論を導き出すターニングポイントがあるのかを説明しました。
とにかく「分からないから大勢の子が手を上げた方に自分も手を上げる」ということを徹底的に避けました。そのような子の手は、だいたい他の人から0.1秒遅れて上がるものなのです。
ところが今日の3人はスパッと手を上げました。これは「授業クイズのプロ」である嶋田先生も「絶対に自分で出した結論だ」と断言せざるを得ないスピードでした。そしてそれが正解だったわけです。
白状すると、東海メールクワイアーの首席リコーダー奏者(?です。でも東京・仙台・豊田などのコンサートで演奏しています)でもある嶋田先生は、400円のも1000円のも真剣に吹いたので、その音色を判別するのは「かなりムズカシイだろう」と思っていました。もっと白状すると、自分が解答者になった場合、自分で自分の演奏の音色を正確に判別できるか…と言われれば自信はありませんでした。それが3人とも迷わずパッと正解でした。
次に驚いたことは、その理由を聞いた時です。テレビの司会者のように「なんでそう思うの?」とインタビューしました。
出てきた答えは「なんとなく」「カンで」というものでした。
これは本当に驚きました。本当にホントウニ驚きました。
「いやぁ、いちばん最初のリコーダーは、ふっくらとした音がしていたから」とか「最初のリコーダーの音は広がりをもっていた」などというテレビの解答者のような答えが返ってきたら、(その場では言わなかったでしょうが)「ははぁん、この子はテキトウに手を上げたな。当たったのは1/3の偶然だ」と思ったはずです。
クイズに入る前にあらかじめ3人に(そして全員に)ちょっとだけ3つのリコーダーを吹いてその音を聴かせていました。そして3人は全神経を集中して、事前に聴いた86000円の音が何番目なのか、それをカンで答えたのだと分析します。だから「なんとなく最初のリコーダー」「カンで最初のリコーダー」という言葉が返ってきたのだという分析です。
この「何となく」とか「カン」が、嶋田先生が最も付けてほしかった「力」でありまして、ああだのこうだのという理屈や言葉で現れるものではない「力」だと思うのでありました。今日はジャンケンに勝って運悪く解答者になることができなかったメンバーも、同じような「力」を付けつつあると思います。そのような「カン」こそが、これから始まる「表現の練り上げ」に最も必要なものなのです。だから今日も「わさび田」を使ってアレコレ手を尽くしていたのですから。
わずか5分か10分の「お楽しみコーナー」だと思っていた子もいたかも知れませんが、その5分か10分の間に嶋田先生の頭の中では以上のような感想が巡り巡っていたということを報告しておきます。

最後は「臼搗き歌」。これも全員で全部のパートを歌いましたが、とても良い響きでした。そして「臼搗き歌」を使って、いわゆる「カン」を身に付けてもらおうと七転八倒(しちてんばっとう・一生懸命になること)していたのはメンバーも分かってくれると思います。

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