SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


演奏会プログラム原稿

演奏会を始めるにあたって

皆様方のご来場をいただき、合唱団「空」の23回目となる定期演奏会を開催することができますことを、心から幸せに思い、そして感謝を捧げたく思います。
今年も、音楽監督であり、今や日本の音楽界において並ぶべくもない大作曲家、湯山昭先生をお迎えすることができました。作曲者ご自身の指揮・指導によって今回歌い上げるのは童謡曲集「イルカの翼」と合唱組曲「海と祭りと花の歌」です。
「イルカの翼」は皆様もきっとご存じの懐かしい童謡メロディーがあるはずです。
そして「海と祭りと花の歌」は湯山先生の生まれ故郷・神奈川を歌った風光明媚な曲の数々です。
作曲者ご自身の指揮によって紡ぎ出される音楽は、他の誰にも及ぶことができない究極の表現でありましょう。
エジソンが録音を発明して以来、ラフマニノフ、サラサーテ、Rシュトラウス、ホルスト、ストラヴィンスキー、ハチャトゥリアン、山田耕筰、宮城道雄、髙田三郎、大中恩など自作自演の録音を残した作曲家は多く、それらの録音は私たちに音楽を聴く至高の喜びをもたらしてくれます。
湯山昭先生が合唱団「空」の子どもたちを指揮してくださる自作自演の定期演奏会は今回で12回目となります。録音ではない、生の演奏で、作曲者ご自身の表現を味わいたいと思います。
湯山先生と同様に、合唱団「空」をとても愛してくださった大中恩先生が、昨年12月に天に帰られました。今回の第1ステージは大中先生への感謝を込めて、団歌ともなっている「うたにつばさがあれば」を捧げたいと思います。
心を込めて歌います。どうぞお聴きください。

合唱団「空」

【第1ステージ】
大中恩先生へ
先生が天国に旅立たれて早1年が過ぎようとしています。
あの日…12月8日。先生のご葬儀の当日に、合唱団「空」は星が丘テラスでのクリスマスコンサートの本番で「うたにつばさがあれば」を歌っていました。先生が見ておられるような気がして、歌いながら振り仰いだ空には真っ赤な夕焼けの中に1番星が輝いていました。
あれはお別れだったのでしょうか。いいえ、あの星の輝きは、先生と「空」の子どもたちとの新たな絆の始まりでした。
4月にはスプリングコンサートで「うたにつばさがあれば」全曲を歌いました。
そして今日、第23回定期演奏会でも歌います。女声合唱の名曲「月のうさぎ」とともに…。
合唱団「空」は第1回、第4回、第8回と3度の定期演奏会で大中先生からご指導をいただきました。いずれもプログラムにも、合唱組曲「うたにつばさがあれば」指揮・大中恩 とありました。優しくて情熱的な指揮が忘れられません。
歳月の流れの中で、先生から直接のご指導を受けたメンバーは少なくなりました。
でも、直接のご指導を知らなくとも、合唱団「空」の子どもたちには先生の息吹が脈々と受け継がれています。
今日、また先生と出会えます。「空」は元気に歌います。先生、楽しみにしていてくださいね。

【第2ステージ】
「白いうた青いうた」燃え拡がる炎
実はこのステージは2010年、新実徳英先生をお招きした第14回定期演奏会の第3ステージをほぼ再現したものです。
今はサポーターとして協力してくれている当時のメンバーが「就職して(あるいは母になって)「空」に携わることができなくなる前に、もう一度歌いたい」と私に懇願してくるのでした。少年少女合唱団が数多(あまた)ある中で、指導者にこのような願いをぶつけてくるメンバーは他にいないと思います(笑。その懇願をホイホイ受け入れてしまう指導者は、もっと珍しい)。
53曲ある「白いうた青いうた」の中から選んだ曲は、次のような考えに基づいたものでした。
○平和について 「南海譜」「八月の手紙」
○友情について 「ライオンとお茶を」「ちいさな法螺」
○命について  「薔薇のゆくえ」「あしたうまれる」
いずれも新実先生が先にメロディーを作曲し、詩人があとから作詩するという方法で生まれた曲です。
「鳥が」は合唱組曲「やさしい魚」の中の1曲です。
白状しますと、「白いうた青いうた」も「やさしい魚」も2000年に嶋田先生が東海メールクワイアーで歌った曲です。つまり指導者が歌って指揮して燃える曲なのでした。火の粉が燃え移ったメンバーの懇願によるこのステージが、さらに現役のメンバーにも炎となって燃え拡がるのでしょうか。

【第3ステージ】
湯山先生の童謡曲集
「お菓子の世界」「こどもの国」と言えばピアノを習ったことのある子なら「あぁ、知ってるよ」と言う子が多いでしょう。最新作「音の星座」はステキなピアノ曲集です。出版される前の「音の星座」の手書き楽譜を久我山のご自宅で見せていただいたのは嶋田の楽しい思い出です。
ヴァイオリンをはじめ様々な器楽曲にも名曲が多い湯山先生ですが、そのライフワークから童謡を外すわけにはいきません。「おはなしゆびさん」「あめふりくまのこ」「おはながわらった」「山のワルツ」など、作曲されて40年から50年の時を経てもなお今日まで歌い継がれている多くの童謡があります。
その数々の童謡から厳選されて編まれたのが2冊の童謡曲集「ねむれないおおかみ」と「イルカの翼」です。その中の「ヨット」は嶋田が小学4年生の時に教科書で習った歌であり、「夕やけのうた」は まど・みちお(「ぞうさん」の作詞者)の傑作です。「ああ いまのぼる この夕日」とは日本で沈む夕日が地球の裏側では朝日であるという壮大なロマンであり、湯山先生のメロディーとハーモニーが詩の世界をさらに鮮やかに膨らませている文字通りの傑作、童謡中の童謡であると言えましょう。
鈴木三重吉から始まる「童謡は世界に誇る日本の文化である」と湯山先生は常々語っておられます。その先駆者に20年間、12回に及ぶ指導を受ける幸せを得た合唱団として、「ねむれないおおかみ」と「イルカの翼」の2つの曲集は常に座右の銘として温めていきたいと願い、今ここに誓いたいと思います。

【第4ステージ】
「海と祭りと花の歌」私の運命を変えた日、運命を変えた曲
私事になりますが教員1年目の昭和59年2月、神奈川県大磯町立大磯小学校を訪ねた私は大塚正夫・福井靖史両先生の授業を参観しました。授業後、同校の合唱部が歌う「雪はりんりん」を聴いた私は全身が総毛立ち、「小学生も指導次第でここまで高まるものなのか」と衝撃を受けました。その歌声こそが同年のTBSコンクールで日本一となり文部大臣奨励賞を受賞したものだったのです。「子どもの力を伸ばすことのできる教師になりたい」と心の底から願い、決意した私にとって、その歌声と音楽は「私の運命を変えた」と言い切れます。教員生活の前半は大塚・福井両先生の授業を参観し続け、その後半はその歌声の作曲者を追いかけ続けました。
その作曲者とは誰あろう湯山昭先生だったのです。
湯山先生の合唱曲は、間違いなく「歌う子どもの表現力を伸ばす」要素を持っています。その秘密というか鍵がどこにあるのか明言することはできないのですが、絶対に何かがあります。歌って楽しい、美しくハモる、リズムに乗って歌える…そのどれもが正解なのですが、それ以上の何かが隠されています。
私の運命を変えてくれた日から30数年の時を経て、私はついに作曲者自身が指揮をする「雪はりんりん」に辿り着きました。合唱団「空」のメンバーの力を借りて、「海と祭りと花の歌」全曲を聴くことができるのです。本当に感謝の思いでいっぱいです。メンバーはイヤがるかも知れませんが、この曲ばかりは私も、子どもに立ち返って歌いたいと思います。歌わずにはいられない…それが正直な気持ちです。
湯山先生の生まれ故郷・神奈川を歌い上げたこの曲は、小田原少年少女合唱隊の委嘱によるもので、20に及ぶ湯山先生の児童合唱組曲の10番目にあたる作品です。

Comments are closed.