SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


それぞれの子がそれぞれの目標を持つ

【9月16日(土)】
今日は本当に嬉しいことに新入団員を迎えました。しかも男の子。もちろんここでは名前もプロフィールも記せませんが、練習会場に足を運んでくれた経緯については多くのメンバーが既に周知するところです。大中先生が引き合わせてくださった運命の出会い…と言うこともできるでしょう。大中先生ありがとうございます。そしてヨロシク。よろしくお願いいたします。
「駿河のうた」の「さくらえびの海」の表現を練り上げる練習を開始して、冒頭の部分を歌ったところで、「彼」がお母さんと入ってきてくれました。ソプラノもメゾもアルトもどこでもこなせる子なのですが、少年合唱に関して「彼に残された命」を考えてアルトを担当してもらうことにしました。
異質な書き方ですが、これは既に活躍中の男子二人にも言えることです。男の子には「変声」という問題があり、ウィーン少年合唱団では厳格な年齢制限があります。たしか14才までだったかな。変声してテノールあるいはバリトン・バスになった場合、もうソプラノやアルトは歌えなくなってしまうこともあります。ですが、男声の場合にはカウンターファルセットというものがあり、嶋田先生のように(?)テノールなのですがカウンターを使って裏声でみんなの中に入ってアルトを歌うことができるようにもなります。過去の「空」の団員にも20才を超えてもアルトに在籍した男子が何人もいましたし、ウィーン国立歌劇場少年少女合唱団のように18才まで男子が在籍できる合唱団もあります。
しかし女子に比較すると男子が「少年少女合唱」に取り組める「命」は短い。恒川さんや高倉さんの年齢を述べることはできませんが、彼女たちの年齢まで「空の男の子」三人(になった)がレギュラーとして歌うことは基本的には(よっぽどシッカリとした訓練を積まない限り)不可能でしょう。
「命」という表現にはそういう意味があります。で、アルトになった。

いやぁ、しかし嶋田先生は男として羨ましいです。先生にだってそういう時期はあったのです。小学校での合唱部ではソプラノでしたが、父の転勤の関係で一度もステージに立つことはなく、転校先の小学校には合唱部はなく、中学校の合唱部に入った時には既にテノールとして扱われて混声合唱となり、大学では当然混声合唱。今は男声合唱団に入っていますが、結果として少年少女合唱の曲をステージで歌ったことはありません。
マジな話、子供の時に(当時作曲されたばかりであった)「鮎の歌」や「駿河のうた」を歌いたかったです。先生の「命」は尽きてしまった。「空」の男子三人が本当に羨ましいです。しかし、そのかわりに「自分が歌えなかったチャンス」を女の子たちを含めて、みんなに提供できることを(傲慢な言い方ですが)誇りに思います。

で、アルトになった。の続きです。なので嶋田先生は急遽、譜面台を中央からアルト側に移して鍵盤ハーモニカで徹底的にアルトの音を補助することにしました。恒川さんにはソプラノとメゾソプラノ側に位置してもらい、表現というよりは音程の確認をしていく練習に切り替えます。
音程の確認といってもいろいろなレベルがあります。もう音程は分かっているよ…という子も当然いるでしょうが、ではその子が完全に正確な音程かというと「ハイ、私は完全に正確です」などと自信を持って手を上げることのできる子はいないでしょう。小学校や中学校の部活動ではないのです。「空」の場で「本気になって(今は本気になる時期です)言う音程」とは、1/100音のズレを修正しようとする話です。
その力を磨くためには相手がいなくてはなりません。他のパートが出す音に対して自分が正確に合わせてハモらせる力です。極端な話、相手の音程が下がってきた時には自分も音を下げてまでハモらせる力も必要ですし(そのためには耳の力が必要)、相手の音が下がらないようにするためには自分が正確な音程を保つことが必要であり、それをお互いに正確に保とうとすることによってお互いが正確になっていく、そのスパイラルです。
音程の問題だけではありません。音程にある程度の目星がついているのなら、次は楽譜を見ないで歌うことをやってみる必要があります。これまでに何度も書きましたが、全盲でも点字楽譜を使って練習し、ヘンデルの「メサイア」全曲3時間を完全に暗譜で歌った友達が嶋田先生にはいます。歌詞は当然英語。強弱やテンポなどの表現も当然暗譜です。
そんなことできるわけない、だってアタシは子供なんだもの。と言ってはいけない。そういう子に欠けているのはチャレンジ精神です。自分を高めようとするチャレンジ精神。やってみようとする気持ち。これは大人も子供も関係ありません。チャレンジ精神が無い子は勉強も伸びません。教師生活35年(ど根性ガエルの町田先生みたいになってきたな。町田先生は教師生活25年だったけど)の嶋田先生の経験値です。
ですが、楽譜から積極的に目を離して歌おうとする姿は多くありませんでした。これは少し残念。100回間違えても1000回ミスしても良いと言っているのですから、来週はもっと積極的にね。
そうは言っても、それは先生の目に映った「姿」であって、「心の中」ではそれぞれに様々なチャレンジをしてくれていたものと思います。音程、ハーモニー、歌詞、強弱、テンポ、こう歌いたいという自分の思いの実現など、それぞれの子がそれぞれの目標を持って取り組んだ2時間でした。
その2時間に歌った曲は「さくらえびの海」「みかんの花はかおり」「ちゃっちゃ茶畑」「うなぎの子守唄」「空と樹海と湖と」「毬つき歌」「眠らせ歌」「遊び歌」「加賀の子ども歌」「北陸づくし」の10曲というわけですから、こりゃあもう正気の沙汰ではない。とんでもない超スピードです。先週と今週との2週間でプログラムにある曲の全てを総ざらいしたわけですから、無謀とも言える方法論です。
それが可能になったのは、その場で歌ってくれた一人一人がいてくれたことに他なりません。感謝です。
来週日曜日は湯山先生ご本人をお迎えする練習です。その前日の土曜日は、また火を噴くような練習(笑)になると思います。「空」のメンバーの鋭意努力に期待します。

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