SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


倍音について

愛知県合唱連盟合唱祭は本当にご苦労さまでした。
久しぶりに,本番を意識する必要のない,ごくごく普通の練習をすることができます。普通の練習とは,一人一人の力を高めることや,定期演奏会で歌う曲をどんどん覚えることに集中できる…という意味です。
嬉しいことに先日,見学に来てくれた子の正式入団が発表され,歓迎の歌です。その時,倍音の話になってしまいました。まあ,話の流れというもので,その時に倍音が鳴っていなければ嶋田先生もサッと歓迎の歌を終わらせたはずです。
歓迎の歌のような簡単な曲の音を確認していた時に,しかもそれは朝一番の声出しの時に,倍音が聞こえるということは,とても素晴らしいことです。
倍音…というのは,書き出すと100ページあっても足りないくらい長くなるのですが,カンタンに言うと「みんなの声がそろった時に1オクターブ高い音が聞こえる」という現象です。これを第2倍音と呼びます。本当は(もっとレベルが高くなると,第3倍音と言って)5度の音も鳴る(ドを出したらソ,レを出したらラの音が鳴るのだ)のですが,まあ人間の声では不可能です(本当は不可能ではない)。
大切なことは,みんなの耳が,その倍音(第2倍音。1オクターブ上の音)が聞こえるほどに育っているかということです。倍音は,実際には誰も出していない音なので,きわめて小さい音であり,よほど集中していないと聞こえないのです。
いや,集中していなくても聞こえるのですが,うーん,なんて言うのかなあ…。分からない人には分からないのですよ。
すごく乱暴に言うとですね,生まれたばかりの赤ちゃんにとっては,ダイヤモンドと石ころの違いは分からんでしょう。イヌやネコにダイヤと石ころを見せても,イヌやネコにとっては同じ価値に感じるはずです。たぶん「どっちも食い物じゃないや。いらねえよ」と言うでしょうね。
人間は無限の音を聞いています。音楽プラザのリハーサル室だって,空気の流れる音や友達の動く音,息をする音,そして父母会の足音やドアを開く音,嶋田先生の変な声,いっぱい鳴っています。
無限に存在する石ころの中にある一粒のダイヤモンド。イヌやネコなら拾いません。彼らにとっては同じ物質に見えるからです。人間なら拾います。人間にとってはダイヤの方が価値があるからです。
その判断力。見出す力。音にも同じことが言えます。みんなが実際に出している声がドーンと聞こえていて,その中に微かに鳴っている倍音を聞き出せるかどうか。嶋田先生にとってはカンタンでも,生まれたばかりの赤ちゃんには決してできないでしょう。
で,みんなは,嶋田先生と赤ちゃんの間にいるわけなのですが,どっちに近いかが勝負です。真ん中らへん…などと言わないで,できるだけ嶋田先生に近づいてくださいね。いや,早く嶋田先生を超えてください。そのための支援をがんばりますから。

さて,練習の本題は「四国の子ども歌」です。何と,前半の11時までに「田植歌」と「終曲~子守歌」の2曲を通してしまいました。驚くべきスピードです。しかも,全員が全てのパートを一通り歌うという方法を使ってですから,いかに効率が良かったかはお分かりいただけると思います。
「子守歌」の練習で面白かった話。
P49から「阿波の子守歌」が歌われます。「ねんね ねんねと ソレ叩いて寝さす」「なんで寝らりょか 叩かれて ヨイヨコ」という歌詞。日本の子守歌に対する理解度ですね。
ヨーロッパの子守歌,たとえばシューベルトにしてもブラームスにしても,その歌詞は次のようなものです。
「ねむれ ねむれ 母の胸に」
つまり,ヨーロッパの子守歌は,母親が自分の子どもに歌うものなのです。
一方,日本の子守歌は,奉公に出された女の子が「ご主人様の赤ちゃん」を泣かせないように歌うものです。
泣かすとどうなるか。晩ご飯抜きです。あるいは殴られる。「子守もできねえのか,この役立たずめ」という感じ。 ご主人様の赤ちゃんが泣くか泣かないかで,折檻(罰)を受けたり殴られたり晩ご飯を抜かれたりする。だから赤ちゃんが憎らしくて仕方がない。ご主人様に見えない所で「このやろう」という調子で赤ちゃんを叩く…ということです。
「早く寝やがれ,このクソッタレ赤ん坊野郎!」ってな気持ちですかね。それが「ねんね ねんねと ソレ叩いて寝さす」です。
さあ,そうしたら,叩かれたご主人様の赤ちゃんも言い返すわけです。
「何しやがんでぇ!このクソ娘。ぶっ叩かれて寝られるわけ,ねえじゃねえか!」ってなシチュエーションですかね。それが「なんで寝らりょか 叩かれて ヨイヨコ」です。
音符の下に書いてある平仮名を,ただ歌っているだけなのと,上に書いたことを理解して歌うのと,その違いは明白であり,歌う面白さもダンゼン違います。

後半は「手毬歌」これも通すことができました。2時間半の練習で3曲を総ざらい。とても充実した練習でした。先生も楽しかったです。ありがとうございました。

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