SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


ゾッとするような響きが生まれました

中学生・高校生の期末テストの時期で、多くの参加が望めません。しかしながら、集まってくれたメンバーが「ああ、面白かった」「今日の練習に来てよかった」と思って帰ってくれるような練習をすることが、先生の務めであり義務です。

一人一人の声を確認する作業は、この日も続きます。先週いなかったメンバーに簡単なフレーズを歌ってもらって、チェックしていきます。2週間合わせて20人ほどの声をチェックすることができましたから、けっこうな成果であったと報告しておきます。何をチェックしたのかについては、先週のダイアリーに記したとおりです。

「雉」も少し歌いましたが、この日の練習のメーンは「わさび田」です。この日のメンバーはとても声がよく出ていて、先週と同じく全員で全てのパートの音を取るという作業だったのにもかかわらず、非常によくハモります。途中、父母会の太田さんが練習の様子を見に来られましたが、そこで鳴っているいるハーモニーに感じ入っておられました。太田さんは、父母会の中でも最も合唱組曲「鮎の歌」を熟知しておられる方です。

3小節目からの「わきみずは」の部分、「ミソ」「ミソラ」「ミソド」「ミソレ」とハーモニーが変化していきます。まず「ミソ」で純正の和音を作り、「ミソラ」でソとラをぶつけ、再び「ミソド」の純正和音。そして「ミソレ」でミとレをぶつける。純和音と不響和音とが交互に響くことで、流れる水の清楚な美しさを表現しています。この部分が非常に短い時間で、というか一発でハモったことが、この日の練習の最大の成果であったと言えるでしょう。そして9小節目~10小節目で、再び「ミソレ」から今度は「ミソ♯ド」の純正和音になる。しかもハミングで。何とも言えない味わいのある進行なのですが、ここもとても上手くいきました。メンバーに力のある証拠です。ついでに説明しておきましたが、冒頭のピアノが奏でるアルペジオは「ドソミソドレソ」と上昇して「ソレドソミソド」と同じ音で下降します。オタマジャクシが山の形になります。しかも、その山は左右対称です。この「ドソミソドレソ」の「ドソミ」はハ長調。「ソドレソ」はト長調。つまり、異なる調性が混在しているのですが、これも非常に味わい深く、そして湯山先生の作品の場合、このような「左右対称の山」の形をしたアルペジオが出てきた時は、多くの場合「水の流れ」を表現しています。これ、いろんな曲を歌っていくうちに分かってくることと思います。

終結部の「わさび田を流れる」という部分も、よくハモりましたねえ。ゾッとするような響きが生まれました。この部分、「♯ファ・ラ・♯ド」という和音なのですが、単純に言えば「短調」の和音です。小学校5年生6年生の音楽では「長調と短調」という単元があり、長調は「明るい感じ」「元気な感じ」「うれしい感じ」などと表現をし、短調は「暗い感じ」「さびしい感じ」「かなしげな感じ」などということを学習するのです。しかし、湯山先生の手にかかると、本来なら(小学校のレベルなら)「短調」と言い切ってしまう和音のはずなのに、実に明るく響きます。まるで魔法です。そう、湯山先生は「和音の魔術師」であり、その作品群に選び出される透明な和音は孤高の境地として定評があるのです。その一端を垣間見ることができた一瞬でした。

「今日の練習、やって良かった」と、少なくとも先生は思いましたが、参加してくださったメンバーのみなさんは、いかがだったでしょうか…。

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