SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


男の子のカウンターファルセットについて

【令和元年5月4日(土)】
令和という新しい時代になりました。何かしら新鮮な気持ちがしますね。新しい時代を切り開くという意気を大切にしながら、これまでと変わらぬ地道な努力を続けていきたいと思っています。
スプリングコンサート終了後、6月の愛知県合唱連盟合唱祭に向けて、あまりにも「雪はりんりん」中心の練習を組んでいたのではないかという反省があり、誰も知らない曲がまだいくつか残っていることも考えて、今日は誰も知らない曲を練習の中心に組んでいこうと思っていました。
嬉しいことに新入団員を一人迎えて、また一人の見学者を迎えたこともあり、結果的には正しい判断だったと思います。誰も知らない曲であれば、ベテランのメンバーも今日初めて練習するメンバーも同じ土俵に立つことができますから。
まずは「イルカの翼」から「海をみていると」です。そして「かげと わたし」。そして「ゆりがさいてる」と「ひとつの地球」を歌いました。全部のパートを全員で歌うという方法は今日も変わりません。クドイくらいに繰り返して言ったことは、「どんなにムズカシそうなメロディーでも、聴いて1分以内なら正確に声に再現して歌うことができること。そういう耳と集中力を身に付けることが大切です」ということ。これはクドイようですが、そういう耳と集中力なくして合唱はできないことは明晰判明(めいせきはんめい・明らかになっている不変の真実)です。だから何度も何度も、4曲のいろいろなメロディーを使って支援していきました。
いずれにしても今日の練習は「海をみていると」なり「かげと わたし」なりの表現を練り上げる練習ではなく、練習に参加してくれたメンバー一人一人の合唱力を高めることを眼目に置きました。
途中、男の子の発声についても言及しました。男子のメンバーが全員中学生となったので、いずれは女子メンバーにも分かるように説明し、また「ソラノート」にも記しておく必要があるからです。
ウィーン少年合唱団(当然全員が男の子です)は18才まで在団が認められており、彼らはカウンターという声を使っています。ファルセットとも呼ばれます。早い話が「裏声」で、「裏声」とは何かというと「オカマの声」です。
「オカマの声」などという言葉を使うと変なことを想像してしまう子がいるかもしれませんね。確かに普段の学校生活でそれをやると、その男の子は絶対にモテなくなります。しかし、音楽の(というか合唱の)世界では完成された領域であり必要な方法論なのです。
カウンターテナーと呼ばれる裏声(ファルセット)を使ってアルトを歌う歌手は、古くはアルフレッド・デラーという有名な人がいて(先生はレコードを持っています)、現代ではヨッヘン・コヴァルスキー が最高(先生はビデオを持っています)で、日本にも岡本知高(この人はソプラノを歌います)・藤木大地・彌勒忠史・米良美一といった歌手がいます。米良美一は「もののけ姫」の主題曲を担当していますから聴いたことがある子がいるかもね。
中世のヨーロッパの教会では、女性が中に入ったり歌ったりすることが禁じられていたため、教会の聖歌隊のソプラノやアルトは男の子(ボーイソプラノ・ボーイアルト)が受け持っていました。しかし所詮(しょせん)は子供なので、大人のテノール(嶋田先生はテノールです)やバスには声量的にバランスが取れず、大人の男性でソプラノやアルトをカバーするために編み出されたのがカウンターテナーという方法なのです。
ヒミツの話を書いてしまいますが、カウンターテナーだけでソプラノをカバーするのは難しいので、何と優秀なボーイソプラノの男の子のキンタマを手術で取ってしまい、声変わりしなくなるようにすることまでありました。声変わりをするのはキンタマから分泌される男性ホルモンが関係している(医学的事実)ので、その男性ホルモンが出てくる前にキンタマを取ってしまえば、声はボーイソプラノのままで身体だけ大人になっていく男性が出来上がるのです。ただしその人は子供ができなくなりますけれども。
このようなキンタマを取ってしまった男性ソプラノを「カストラート」と呼び、中世に誕生したカストラートは20世紀の初頭まで存在しました。エジソンが録音を発明したのが1877年で、地球史上最後のカストラートが死んだのが1922年ですから、その最後の歌声が録音として残っています。その録音を持っている嶋田先生って、やっぱり声のオタクなのかも…。
それほどまでにして守られてきた男性のソプラノやアルトですが、現代では人道上の問題もあってカストラートは存在しません。だから現代ではカウンターテナーが確立され、ウィーン少年合唱団でも重要な役割を担っています。カウンターテナーは本来はテノールやバスなので、女性のアルトには出せない超低音をイとも簡単に出すこともできるので、裏声が出せる男の子は少年少女合唱では超貴重な宝物なんですよ。
嶋田先生は今年の3月にも、卒業を控えた自分の学校の6年生たちに「男の子が裏声で歌うことは少しも恥ずかしいことではありません。変なことでもありません。それはむしろ必要なことなのです」と説明しました。何のことなのか分からない子が多くいたこと思います。だから今日説明したわずかな時間だけで「空」の子が十分な理解をしてくれたとも思えません。ですが「空」の子は分かってください。そして応援してほしいのです。カウンターファルセットという技術はそれなりの練習と努力を必要とするということを…。男子メンバーの努力を期待して、嶋田先生も可能な限りの支援とサポートをすることを約束して、今日のノートを終わります。

追伸です。今日の練習の後半で新実先生の「薔薇のゆくえ」を歌ったのは、ただひとつ、男の子たちにカウンターファルセットを実体験してもらい、そして嶋田先生も自分にできる精一杯のカウンターファルセットで応援ができる、そういう曲だったから「薔薇のゆくえ」を取り上げたという訳です。

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