SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


ふれあい合宿 2日目

【8月17日(金)】
2日目の当初の予定は午前中に「向日葵の歌」、午後から「ねむれないおおかみ」というものでしたが、ピアノ伴奏の譜めくりの関係で「向日葵の歌」を3日目に回し、3日目の午前に予定していた「サウンド・オヴ・ミュージック」と入れ替えることとしました。
まずはラジオ体操で体をほぐして、それから「グレゴリオ聖歌」の続きです。歌う前に歌詞を単語ごとにまとめるように言いました。
「グレゴリオ聖歌」の楽譜はカタカナが無作為に並んでいるように見えます。しかし楽譜をよく見ると、「ディクシトゥ」で一つの言葉、「ドミヌス」で一つの言葉、以下「ドミノ」「メオ」と続いています。このまとまりごとに線を引くなり〇で囲むなりしてもらいました。
次に先唱者(Solo)を暫定的に高校生全員とし、答唱(All)を小中高校生として歌ってみました。少なくとも先唱・答唱の立体感は感じられるようになりました。あとは「そろえる」「ズレてはいけない」という合唱人間の常識をいかに破壊して、度胸を決めて歌うか…ということになります。
「朝の讃美歌」は美しくハモります。今このノートを書いている(2日目の練習は終わっている)時点での反省は、もう少しフレーズのまとまりを意識してもらうように指揮すれば良かったな…という点です。どういうことかと言うとですね、この「讃美歌」は4つのフレーズでできているので、それぞれのフレーズの終わりをリットしてだんだん遅くするんです。
さらに具体的に書くと「ノビリス」「ファビリス」「ラビリス」でリットをかける。2回目の一番最後の「ラビリス」はフェルマータですから、すごくゆっくりにして長く伸ばします。これは土曜日の練習で確認しましょう。
「ハレルヤ」を元気に歌った後、「サウンド・オヴ・ミュージック」に入ったら合唱モードに火が着きました。非常によくハモるので、次から次へと指示するレベルが高くなり、1/100音の音程を修正するみたいな世界になりました。弁解するわけじゃありませんが、これには理由があります。
一つ目は、合唱に限らずどんなスポーツでも習字でもソロバンでも、プレーヤー(つまりみなさん)のレベルが上がれば上がるほど、上手になれば上手になるほど、次に出てくる課題や要求や指示はレベルが高くなる…ということです。初心者にイキナリ「正確な音程で歌え」ったって、そりゃ無理な話です。ちょっと歌えるようになれば「どんな声で歌うか」「相手の声にどう合わせるか」などと課題のレベルがドンドン高くなる。1/100音の世界に突入したのは、言い換えれば非常に質の高いハーモニーが生まれつつあり、みなさんがレベルアップしているからであったと言うことができます。
二つ目は、そのハーモニーというものは1/100音高いか低いかで全く別物になるということです。これは物理的な問題です。1秒間に400回の波を作る「ラ」の音と1秒間に500回の波を作る「ド」の音がぶつかると、1秒間に80回「ラ」の波と「ド」の波が重なって波が大きくなるという現象が起こります。小学校6年生の算数(最大公約数・最小公倍数)ですね。

(※500とか400とかの数字は話を分かりやすくするために使ったもので、音響学的に正確な数字ではありません)
で、1秒間に400回のはずが1秒間に401回の波を作ったとする、あるいは399回の波ができたとすると、80回できるはずの重なり合う波の数が大幅に減少します。80回重なるはずなのに1回も重なり合わなかった…なんてことがスグに起こります。
ハーモニーの色彩というものは、このようにして生まれるわけなんです。この日のメンバーが生み出したハーモニーは、そういうレベルにあったと言うことですね。だからメンバーの中には、この時のハーモニーがある瞬間ではありますが非常に不思議な(特異的に美しい)ものであったと自覚している人がいることと思います。
「私のお気に入り」に入ると一転、音楽が非常に気楽なムードになるので気楽に歌ってしまいます。ところが音楽が(その編曲が)気楽に歌うことを許してくれません。1番「バラの夜露」2番「白い子馬」3番「白いドレス」それぞれ、メロディーは同じでも「ラララ」だとか「ブン」だとか、飾りの歌(つまりメロディーじゃないパートの音)が全部違うので、毎回頭を切り替えないといけません。
しかも「ハッピー」と歌って決着したかと思ったらハ長調に転調して1番「バラの夜露」から全部歌い直しです。萩原英彦の編曲なら音が高くなるだけでやることはみんな同じなのですが、「ラララ」だとか「ブンブン」だとかが複雑になって襲い掛かってきます。
つまりゲームの強敵キャラクターが、次から次へとレベルを上げて6回襲い掛かってくる、この全てをなぎ倒さないと「ハッピー」に到達しない…というわけです。
しかも強敵キャラクターに立ち向かうメンバーは2人3脚ならぬ20人21脚みたいにチームで戦うわけですから、だれか一人がオヨヨと転べば全員がひっくり返ることになる。
ゲームとしてはこの上もなく面白いでしょうが、合唱となると大変だ。時間が無限にあるわけでもなく、昼食の時間も迫ってくる(クリアするまでの時限爆弾が爆発する)ので、何とも中途半端な印象を残して終了となりました。
ところが次の「ひとりぼっちの羊飼い」も似たようなもんです。似たような歌詞が前後の脈絡なしに飛び掛かってくるみたいだし(本当は話になっていて脈絡はありますが)、途中で「タタタ」とか言って変なハモりが入るし、しかも嶋田先生がその「タタタ」を「オーホー」だとか「レディオドゥ」だとかに変更しろと言うし、気楽に歌っている人を次から次へと機関銃で襲ってくるキャラクターが登場します。
これを全部やっつけて「やれやれ」と思ったら、いきなり♭が4つになって(つまり転調して)また最初からやりなおし。アルトには「オー」が襲ってくるだけですがソプラノには「アアアアアー」とかいうのが襲い掛かってきます。ソプラノが戦っている間にメゾソプラノとアルトには「ホディレイー」の速射砲が撃ち込まれて、これを全部かわさなくてはならない。しかも最後に最高音の♭シが待っています。
そしたら次は「さようなら、ごきげんよう」で、これはミファソーラシラソファミレードレミーファソラーソファミーレーミーときて、全部隣の音への移動です。ハ長調であるがゆえに極めて正確な音程が要求され、ゼンゼン気楽に歌えない。合唱団「空」もエライ曲をプログラムに組んだもんですな。
しかも司令塔である嶋田先生が英語の紙を配ったりして、「サウンド・オヴ・ミュージック」と「すべての山に登れ」の最後の部分は「英語で歌いましょう」などと言う。
メンバーにとっては昼食をはさんで午前・午後と殴られ蹴飛ばされ振り回されて、艱難辛苦(かんなんしんく)の修行のような時間が怒涛(どとう)の如く過ぎ去っていったのでした。午後に予定されていた「ねむれないおおかみ」は1秒も歌うことはできませんでした。
夕食の後、ベッドに横になっていた嶋田先生は爆睡(ばくすい)状態で眠りこけてしまい、夜のレクリエーションに参加することができませんでした。叩き起こされて次の花火大会には間に合いましたが、しかしメンバーの表情は非常に明るく、踏まれても踏まれてもなお立ち直ってくる雑草のような力強さとバイタリティーを感じ、驚異(脅威かも)に思っていたのでありました。

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