SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


直感とヒラメキと度胸

【8月19日(土)】
まずは今日、都合で練習に参加できなかった子たちにクイズを出しましょう。
≪問題≫
童謡歌曲集の7曲目「妖精のワルツ」の終わりに「わたしのフェアリー」という歌詞が出てきます。では、「フェアリー」とはどういう意味でしょう?

練習のスタートからイキナリ歌うのは発声練習を兼ねてのこと。「童謡歌曲集」から始めたのは正解でした。合宿で配った楽譜ですから、都合で合宿に参加できなかった子にとっては初見となります。歌う前に鍵盤ハーモニカやピアノでメロディーを叩きます。それだけで、初めての子も、おおよその音を捉えてくれます。また2回目という子たちも(今日は全員が、初めてか2回目かどちらかだ)集中して音を聴いていて、記憶がクリアに再現されていました。それは出てきた歌声からすぐに分かります。音程はほとんど問題なし。自信を持って歌っている感じがします。
まあ、楽譜を手放してしまったら不安もあるでしょう。その不安とは、つまり長い歌詞を覚えているか、覚えられるかという不安であって、音程の問題ではありません。
「ひとつの地球」の歌詞をよく読んでみましょう。すると繰り返しの1番~3番は「あなたの心わけてください 私の思い届けます」「あなたの痛みわけてください 私の涙届けます」「あなたの笑顔わけてください 私の愛をおくります」という部分が違うだけで、あとは全て同じです。ここに「ひとつの地球に ひとつの夢を託し…」という歌い出しが加わるので、文字数から受ける印象ほど長い歌詞ではありません。繰り返しが多いので長く見えるだけです。
ところが「走れフェニックス」は同じようにはいきません。繰り返しは「エヴァグリーン」だけです。終結部の「フェーニーックスー」に続く言葉も「空にはばたく」「空に飛び立つ」「空を馳せ行く」で、大中小とか朝昼夜といった順序性が特に無く、非常に覚えにくい歌詞です。ここは、みんなの柔軟な脳ミソに期待するしかありません。
「ねこのマズルカ」は1番「よわむしねこ」2番「おかしなねこ」から始まる4行だけが違っていて、あとは同じ歌詞の繰り返しです。
1番は「ケンカをして負け、得意の木登りは降りられず、リボンをつけたオスのネコ」という弱虫さ。
2番は「恋愛してフラれ、いたずらして怒られて家出して、魚を食べればノドに骨が刺さる」という可笑しさ。
この部分だけですね。もちろん、言っている内容にふさわしい声で歌うことはカンタンではありませんが、文字数のわりには覚えやすい歌詞だと思います。
「白い花火」と「ぞうのこ」は、みんなの柔軟な脳ミソに期待するしかありません。「白い花火」は「はまゆうの白い花火」と「海はみち潮」だけが共通していて、あとは美しく流れ出る情景の世界です。「ぞうのこ」は「お鼻ふりふり」ときたら「ゆうらりゆうらり」になることだけが共通点で、「何か知らぬが」の次に何が来るか、「いつか知らぬが」の次に何が来るか、これを脈絡をもって解明することはおそらく不可能でしょう。北原白秋らしい、のんびりとした、ふわっとした情景の世界です。
じゃあ、どうすればいいのさって言われそうですね。こんな時に頼りになるのは、自分の直感とヒラメキです。それから、間違えても大丈夫…という度胸(勇気と言った方が良いか)です。ベートーヴェンの第9交響曲を皆さんもいずれ歌う機会が来ることと思いますが、「ザイトゥム シュルンゲン ミリオーネン ディーゼン クスヴェル ガンツェン ヴェル」というドイツ語を脈絡をもって覚えることは不可能です。「平伏して祈れ 億万の人々よ」という意味だけを覚えておいて、あとは勢いで、直感とヒラメキと度胸だけで歌い切る…という世界は先生の経験上、確かにあります。
「歌声よ いのち新しく」「妖精のワルツ」「12の月のうた」も、この直感とヒラメキと度胸に頼る部分が大きい。「あめふりくまのこ」のようなストーリー性や「おはなしゆびさん」のような順序性や「山のワルツ」のような時間的な流れがあれば良いのですが…。
そんな中でも大切にしてほしいのは、自分が歌う歌詞の意味を理解している共感です。これを失ってしまったら、それこそ空っぽの、何の値打ちもない音楽になってしまいます。
たとえば「妖精のワルツ」に出てくる「わたしのフェアリー」という歌詞。これはタイトルにもあるように「私の妖精」という意味で、「私の妖精のような心」「わたしの心そのもの」「私の心の中にある愛」などと読み取れます。
だれかに、つまり会場のお客様に「きらきら輝く私の愛の心」と歌う時には、みなさんの心そのものがそうあってほしい…と願っています。
このような、ほんのちょっとした部分から、共感の糸口をつかみ、歌詞の内容を自分のものとしてイメージしていってほしいなあ…と心の底から願っています。

その後は「北陸の子ども歌」に「わたりどり」と「ブランコ」を歌いました。十分な人数ではなくハモらない部分は当然ありましたが、今日言ったことは音程ではなく歌詞の出の部分をきちんと出すということでしたから、この問題に関してはみんな鋭く反応してくれました。来てくれた子がレベルアップするという先生の課題は、今日も克服できたものと自負しています。

23日からアメリカに留学するという安藤さんが、わざわざ「演奏会に出られなくてゴメンナサイ」と挨拶に来てくれました。大きくなって、大人になりましたが、嶋田先生にとっては真実ホントウ可愛い子です。理想的なOBの姿ですね。何より、現在もなお進行形で「空」の役に立ちたい…立ちたかったという思いを感じることができます。安藤さん、本当にありがとう。心から応援しています。

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