SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


多人数でしかできない響きの中に
どっぷりと漬かって

今日は女声合唱団「青」との合同練習です。とても楽しい時間でした。

「空」単独の練習だとて、どうしても細かい音程とか、声の出し方とかいう方向に注意が行ってしまいます。それは必要なことで、先週も書きましたが、曲を覚えるのと同時に、一人一人の力を高めることを考えるからです。しかし今日は多人数の練習です。しかも、多くの人が「東北の讃歌」という曲の入り口に立っている段階。こういう時は、細かいことをああだこうだと言ってもダメ。極端に言えば音程なんかどうでも良い。大切なことは、みんなが曲の内容を理解することです。もっと大切なことは、みんなが「東北の讃歌」という曲を好きになってくれることです。曲を理解し好きになれば、音程なんか自然に付いてくる。「ちゃんとした音程で歌いたい」と思うからです。逆に言えば、曲を好きになっていない人は、「ちゃんとした音程で歌いたい」という願いが膨らんでこないので、いつまでたっても上手くならない…ということになるわけです。これ、勉強でも同じことが言えますよ。

というわけで、多人数でしかできない響きの中に、どっぷりと漬かっていただきました。

【うみねこの島】
冒頭部分にesprss.があります。これは「ていねいに」という意味で、早い話がゆっくりになります。
ゆっくりになった後、すぐに元のテンポに戻らなかったことを注意しました。
P.12のソプラノとメゾのAーは何でしょう?
うみねこがいっぱい飛んでくる羽音です。そうですよねって湯山先生に聞いてみる約束をしました。
P.16の「八万羽も九万羽も」は、P.8の「六万羽も七万羽も」より力強く。
宮沢章二先生が、この詩を書かれたのは、もちろん東日本大震災のはるか以前です。しかし、今、現在の感覚でこの詩を読む時、この「うみねこ」は「東北の人々」を意味するものと思えてなりません。六万人七万人の人々が去っていったけど、八万人九万人の人々が戻ってくる、戻ってきてくれ…という思いが湧き立つのです。

【青葉の詩】
冒頭部分の「かっこう鳥」「かっこう花」にアクセントテヌートが付いています。「鳥」「花」の言い切りを軽く切って、チャーミングに。「さいたよ」に付いているesprss.に注意しました。
P.22は「父さん、母さんが歩いた道」ですが、「父さんと歩いた道、母さんと歩いた道」と読みます。
きっといるはずです。死んだ父さんと手をつないで歩いた道、津波に流された母さんと歩いた道を、今、一人ぼっちで風といっしょに歩く子が…。
そんな子は、かっこう鳥に、天の上にいる父さん母さんに自分の言葉を託します。
「ぼくは元気だよ」って…。
宮沢章二先生は東日本大震災を予言していたのでしょうか?それは有り得ないことです。
名詩というものは時を越え時代を越えて、現代の感覚で読むものです。ゲーテやハイネの詩を読む時、その時代の情勢や感覚に思いを馳せる人は研究者ならいざ知らず、基本的にはいません。詩というものは、いつも現代の感覚で読むものであり、数百年の時を越えてもなお現代の感覚で読めるものを名詩と呼ぶのです。
「思い出ひめる丘に、宮城の萩も育つよ」と歌う終結部も、その言葉どおりの「丘に萩が咲く」とは思いません。「父さん母さんと歩いた思い出の丘に、新しい生命が育つよ」と読みます。そのように歌う人が「青葉の詩」への思いを抱く時、この曲は不朽の値打ちを持ってホールに響くことでしょう。

【南部うまっこ唄】
この曲は躍動感が必要です。大人も子どもも重過ぎます。冒頭から58小節目まで、一気に駆け抜けなければならない。
このことについては、慣れてくれば大丈夫。心配ありません。
問題はP.33~P.35です。
駆け抜ける南部の馬っこに語りかける下りです。
「爺様の馬っこまだ生きてるか?見守ってこい。仲間が減っては寂しくなるもんな」
多くは記しません。避難指示が出ている地域の、仮設住宅で今も暮らしておられる人々の気持ちを想像してみましょう。
その想像ができませんと言う人に、この曲を歌う資格はない。どんなに音程が正確であっても…です。

【鮭の大助】
先々週、7月4日の本欄を参照してください。

【かまくら幻想】
この曲はP.68「雪国のかまくらは~」以降が心臓部です。
暗い気持ちが覆う東北、その東北に、明るく温かい灯火を雪の子が燈す…。
その「雪の子」って誰でしょう。歌うみなさんです。もっと言えば、世界中の人々…と言っても良い。
そして、その「雪の子」の灯火が消えた時、今度は「花の子」がその灯火を受け継ぐ…。
「花の子」って、誰でしょうね。分からない人はいないはずです。

【でこでこ三春】
重い。重過ぎです。もっともっと、生き生きとした躍動感がほしい。
特に、12/8拍子から3/4拍子になるP.75で、それまでの躍動感を失わないようにしましょう。基本的なテンポを変えることなく突っ込みます。
「三つの春」って何でしょう?
梅と桃と桜の春です。
しかし、それだけでは足りません。
私の春、あなたの春、あの人の春です。
「春」って何でしょう?
「幸せ」です。
そのように言葉を置き換えて、もう一度この詩を読んでみてください。「みちのくの新しい季節」という言葉が、新たな意味を持って、このノートを最後まで読んでくれたあなたの心に響くことと思います。

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