SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


「いいことなんだけれども、やらない方がよい」
そんなこともあるんです

音楽プラザ・サロンコンサートの本番が午後に予定されています。インフルエンザの流行は「空」には関係ないものと祈りつつ音楽プラザへ。

堀内先生の顔を見るなり、「今日、もしも25人いなければ、コンサートは中止。私は帰ります」と言っておきます。父母会の平松さんにも、同様のことを伝えます。平松さんによると「参加人数は大丈夫」とのことなので一安心。しかし、練習場に入ると果たして16~7人しかいない。「今日は、嶋田先生も背広を着てネクタイをして、やる気300%なんだけど、人間がいなくては合唱はできない。無い袖は振れません。中止になったらゴメンなさいね」と子供たちにも伝えておきます。

本番大好き、歌うこと大好き、12才から合唱を始めて、コーラスキャリア36年の嶋田先生が、なぜこんなことを言うのかというと、世の中には「いいことなんだけれども、やらない方がよい」ことがある…ということなのです。この日のサロンコンサートの目的は、「空」の活動を宣伝し、団員を増やす一助とする…ということなのですが、もしもステージ上のメンバーが10人しかいない状態でコンサートを行ったら、お客さんたちにどんな印象を与えるでしょうか。会場に小学生の子がいて聴いてくれたとして、その子は「この合唱団に入りたい」と思うでしょうか?いろんなフェステイバルや交歓会などで10数名の少年少女合唱団の演奏を聴いてきた嶋田先生は、「ああ、がんばってるなあ」とは思いましたが、同時に「仲間がいなくて可哀想だなあ」という同情を禁じ得ませんでした。

同様に「この合唱団に入りたい」と思う子は百人の中に一人もいないと思います。その10人がキングスシンガーズやウイーン少年合唱団のような実力をもっていれば話は別ですが、合唱団というものが一般人や一般の子供たちに与えるイメージというものは「写真に撮った姿」が大きい。つまり「まずは、何人の仲間がいる、どんな規模の合唱団なのか」が大きい。これは、現在の「空」のメンバーが「入ろう」と決心した時に、もしも「空」が団員数10人の合唱団だったとしたら、はたしてみなさんは「入ろう」と思ったかどうか、自分に問い掛けていただければ分かると思います。

目的が「団員増強・団員獲得」にあるのに、聴く人に「可哀想だなあ」「入りたくない」という印象を与えるコンサートを強行するということはマイナスです。集まったメンバー(嶋田先生も)にとっては、せっかくのステージにせっかく準備を整えたのですから、コンサートをすることは「いいこと」です。「いいこと」なんだけれども、全体のことを冷静にトータルとして考えれば「やらない方がよい」ことになる。個人のレベルと団全体のレベルでは考え方が違います。「いいことなんだけれども、やらない方がよい」とは、そういう意味です。

では11人ならOKかと言うとNOです。では12人では?13人なら?と、どんどん進んできますが、妥協しない「線引き」が必要です。そのラインが25人。

今、給料を下げるな、雇用を守れ(クビにしないでくれ)、という話が日本中を駆けめぐっていますね。嶋田先生も来年度の給料は年間で40万円ほど下がります。これは「いけないこと」です。ですが、日本中の労働者の給料を下げずにいて、それで会社が倒産したり、日本という国家そのものが成り立たなくなったら、どういうことになるでしょうか。日本は今、700兆円の負債を抱えています。国民一人あたりに換算すると、一人600万円です。百才のお年寄りから小学生も中学生も、今日生まれた赤ん坊まで、みんな600万円の借金。国家がつぶれたら、「私の給料を…」なんて言っていられません。ですから嶋田先生は、給料40万円ダウンは「いけないこと」ですが「やむを得ないこと」として理解します。

さて、しかし午後の本番に向けての練習開始。中止になるにしても準備は整えておく。これは大切なことです。なぜなら、そこで行う2時間半の練習は、その日の午後には役立ちませんが、トータルとして長い目で考えれば、合唱団「空」のレベルアップに役立ちます。そこで一生懸命に取り組んでおくことは、決して無意味ではありません。

「富士山」を使って発声練習。ブレスをどこでとるか、どのようにフレーズをつなぐか、いろいろな点に注意を払いましたが、この日の問題は、歌い出しが柔らかすぎることでした。「あたまをくもの…」の「あ」がフワッと出すぎていて音楽にパンチ力が生まれない。歌い出しがそうなれば「しほうのやまを…」の「し」、「かみなりさまを…」の「か」など、全てが同じ現象をおこしてぼやけていってしまう。おいしいラーメンにお湯をタップリかけてから食べるような感じです。しかし、だんだんと修正されていくので、やはり「やればできるなあ」と思ってしまいます。

「小さい秋みつけた」はパートのバランスが悪い。あたりまえの話です。メンバーがヘタなのではない。集まった人数が少ないのです。普通の練習なら、あるパートが一人でもそのまま進めます。あるパートを一人で支えなければならないという経験は嶋田先生にもありますが、それはトータルとして考えると、すごく自分のレベルアップになった経験でした。もちろん、その場は辛いですけどね。ですが、午後に本番があることを想定して練習を進めなければならない。

そこで、複雑に分かれたメロデイーラインをカバーできるように、歌う人をパート間で調整します。これも、それほど時間はかかりません。思うに現在の「空」は、臨機の調整力・応用力といった点では、非常に優れたスキルを獲得していると言えると思います。「雉」「わさび田」「鮎の歌」もそれなりに苦労しました。

時々、ふっとエネルギーが消滅してしまう瞬間がある。ガーンと伸ばして声を張らなければならない部分でデクレシェンドがかかってしまったり、ハミングが1~2拍分短かったり。これらは、聴く人にとっては、ゴルフのボールが穴に向かって転がっていって「あっ、入る。入るぞ」と思った瞬間にフッと止まってしまったような、そんな感覚を抱かせます。「雉」の激しい表現や「わさび田」の清らかな表現など、先週苦労した点は見事に改善されているものの、所々で中途半端な表現が見られます。だから、この日は、詩のイメージや理解という話はほとんどなく、終始「クレシェンド」「フォルテ」「声を保って」という指示が飛び交いました。まあ、それも「今日の弱点を修正する」というレベルでは成功し、だんだん直っていったわけですから、大変に満足できる練習でした。

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