SORA NOTE

嶋田先生から空のみんなへ


「得意なことがあると言っているうちはダメ。
本当に強い人は得意なことなどない」

第12回定期演奏会が終わって、さっそく来年度の活動に向けてのスタートです。

この日は、さすがに終了直後ということもあってか14名の参加と、少しさびしい感じでしたが、内容は非常に充実したものとなりました。それは、第一に、集まった14名は「とにかく次の曲が早く歌いたい」という、非常な意欲に満ちていたこと。第二に、この日の練習は次年度に向けて、一人一人の声を聞きパートを確認することに主眼が置かれていたこと。第三に、事前に配っておいた楽譜とCDを、いちおう目を通し聴いてきてくれたと思われたこと。ということからです。

一人一人の声を確認することは、非常に大切なことで、実を言うと毎回の練習でもやるべきなのかも知れません。毎回やるに超したことはない。しかし、全員で歌っていても、ある程度は「だれがどんな声で歌っているのか」くらい分かりますので、嶋田先生は敢えて、アンサンブルの時間を多くし、全員で歌うことに重点を置きます。とは言え、パートを新しく決めるためにも、この日は、かなり詳しいメモを取りました。

何をメモしたのかって?主なメモは二つ。一つは「その子が、低い音から高い音まで、どこからどこまでの声が出せるか。あるいはどこから出せなくなるか」ということです。つまり音域。二つ目は「その子の音域の中で、その子の力が最も発揮される場所、つまり一番声がよく響くのはどの範囲か」ということです。つまり声質。この二つです。それだけ分かればパート決めには十分で、声量や音程などはあまり問題ではない。まあ、専門的なことをくどくど書いても仕方がないし、嶋田先生の経験から割り出す要素もあるので、詳しくは記しません。しかし、分かったことは、その14人はいずれもとてもよい声と響きをもっていて、しかも多くの子がソプラノからアルトまで、どのパートでも十分にこなす力をもっている…ということです。これは、とても嬉しいことでした。

そして、いよいよ「雉」の練習に入りました。この曲は、合唱組曲「鮎の歌」の第1曲目。雉と猟犬(人間・狩人)との激しい闘争を描いています。しかし、その闘争を別の側面、つまり見守っている立場の植物たちの視点からも描かれている点が斬新ですね。山芋やアケビや野薔薇や紅葉たちが、雉を守ろうとしている。しかし、植物である悲しさ、せいいっぱい枝を伸ばして猟犬の行く手を遮ることくらいしかできなくて、猟犬を追い払い雉を救い出す手立てをもっていない。そんな植物たちの声です。歌いながら、そんな説明を少しずつ加えていきました。

そして、全員でソプラノを歌い、全員でメゾソプラノの音を確認し、全員でアルトも歌ってみる。そうすることによって、子供たち自身も、自分の声と身体がどのパートに向いているのか試行錯誤することができます。また、ソプラノだった子が、メゾソプラノやアルトの音の動き方を体験する貴重な機会ともなりました。なんでもやってみること。これって、とても大切なことです。将棋の名人だった故・大山康晴先生は「得意なことがあると言っているうちはダメです。本当に強い人は、得意なことなどない。」という言葉を遺されました。あらゆる戦法に精通し、どんな戦形になっても最善手を指し続け、18年間も名人の座に就いていた人の言葉です。「ボクはピッチャーしかできない」なんていう子は野球は上達しないし、「私はソプラノしか歌えない」という子は合唱は上達しない。どんな戦法になってもみんなできる、どのポジションも、どのパートもみんなできる、そういうプレイヤーが上達するのです。

たった一日とは言え(しかし来週も同じ練習をします)、全部のパートを全員が真剣にやってみる…という練習は、すばらしく充実したものであったわけです。

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